保内郷メディカルクリニック 内科より
脂質異常症(以前は高脂血症と呼ばれていました)とは、血液中のコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が基準値から外れた状態を指します。高血圧や高血糖と同じく、自覚症状がないまま進行する病気ですが、放置すると血管に深刻なダメージを与え、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気を引き起こします。
当院の内科では、この脂質異常症を生活習慣病管理の重要な柱として捉え、早期発見と適切な治療に取り組んでいます。今回は、脂質異常症の基礎知識、なぜ怖いのか、そして血液をサラサラにするための具体的な対策について詳しく解説します。
1. 脂質異常症とは? 3つのタイプを知る
脂質異常症は、血液検査によって以下の3つの脂質項目のうち、どれか一つでも基準値から外れた場合に診断されます。
❶ LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高い
- LDL-C(低比重リポたんぱくコレステロール): 肝臓で作られたコレステロールを全身に運びます。過剰になると血管壁に蓄積し、動脈硬化を促進するため、「悪玉」と呼ばれます。
❷ HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い
- HDL-C(高比重リポたんぱくコレステロール): 血管壁に溜まったコレステロールを回収し、肝臓に戻す働きをします。動脈硬化を防ぐため、「善玉」と呼ばれ、基準値より低いことが問題となります。
❸ 中性脂肪(トリグリセライド)が高い
- 中性脂肪: 体の主要なエネルギー源となる脂肪ですが、過剰に蓄積されると肥満の原因となり、LDLコレステロールの質を悪くするなど、動脈硬化のリスクを高めます。また、極端に高くなると急性膵炎を引き起こすリスクもあります。
2. なぜ脂質異常症が「サイレントキラー」なのか?
高血圧や高血糖と並び、脂質異常症も「サイレントキラー」の一つです。血液中の脂質が増えても、通常は痛みや自覚症状がありません。唯一の兆候は、健康診断の血液検査の数値だけです。
この無症状の間に、過剰なLDLコレステロールや中性脂肪が血管の内側にどんどん入り込み、炎症を起こして溜まっていきます。これがプラークと呼ばれるコブとなり、血管が硬く、狭くなる動脈硬化を進行させます。
動脈硬化が進むと、以下の重大な病気が突然発症するリスクが高まります。
- 心筋梗塞、狭心症: 心臓の冠動脈が動脈硬化で狭くなったり、プラークが破れて血栓(血の塊)ができ、血管を完全に詰まらせると発症します。
- 脳梗塞: 脳の血管が詰まり、脳細胞が壊死します。重度の麻痺や言語障害などの後遺症を残すことがあります。
- 閉塞性動脈硬化症: 足の血管が詰まり、冷感、しびれ、歩行時の痛みなどを引き起こします。
これらの疾患は、自覚症状が現れた時には既に手遅れになっていることが多いため、症状が出る前の予防的な管理が極めて重要となります。
3. 脂質異常症の原因と生活習慣の見直し
脂質異常症の原因は、遺伝的な体質に加え、高カロリー・高脂肪の食事、運動不足、喫煙、過度な飲酒といった生活習慣が大きく関わっています。
🥗 食事療法のポイント
脂質異常症の改善は、まず食生活の見直しから始まります。
- 悪玉(LDL)コレステロール対策:
- 飽和脂肪酸を減らす: 肉の脂身、バター、生クリーム、ラード、インスタント食品などに多く含まれます。これらを控え、魚や植物油(オリーブオイルなど)を選ぶようにしましょう。
- 食物繊維を増やす: 野菜、海藻、きのこ、大豆製品、全粒穀物などに含まれる食物繊維は、コレステロールの吸収を穏やかにし、排出を促します。
- 中性脂肪対策:
- 糖質・アルコールの摂りすぎに注意: 中性脂肪は、炭水化物(糖質)やアルコールから肝臓で合成されます。ご飯やパンの過剰摂取、特に果糖の多い清涼飲料水や菓子類、アルコールの摂取量を減らすことが重要です。
- 魚を積極的に: 青魚(サバ、イワシ、アジなど)に含まれるEPAやDHAは、中性脂肪を下げる効果や、血液をサラサラにする効果があります。
🏃 運動療法のポイント
- 善玉(HDL)コレステロールを増やす: HDLコレステロールを増やすには、食事制限よりも運動が有効です。
- 有酸素運動を継続: ウォーキング、ジョギング、サイクリングなどの有酸素運動を、毎日30分以上、または週に3〜4回以上を目標に継続しましょう。
🚭 禁煙は必須
喫煙は、LDLコレステロールを増加させ、HDLコレステロールを低下させるだけでなく、血管そのものを傷つけ、動脈硬化を急速に進行させます。脂質異常症の治療において、禁煙は最も重要な項目の一つです。
4. 薬物療法と継続的な管理
生活習慣の改善を数ヶ月続けても、目標値まで脂質が下がらない場合や、心臓病などの既往がありリスクが高い場合は、薬物療法を開始します。
- 主な薬の種類:
- スタチン系薬剤: 肝臓でのコレステロール合成を抑え、LDLコレステロール値を強力に下げる薬。
- フィブラート系薬剤: 中性脂肪を低下させる効果が高い薬。
- 小腸コレステロールトランスポーター阻害薬: 食事からのコレステロール吸収を抑える薬。
これらの薬は、医師が患者様の脂質パターンや合併症リスクに応じて選択します。大切なのは、薬は飲み始めると終わりではないということです。自己判断で服用を中止すると、再び脂質値が悪化し、動脈硬化が進行してしまいます。
5. 当院内科からのメッセージ:定期的な検査で血管年齢を知る
脂質異常症の管理は、目に見えない血管の老化(動脈硬化)を防ぐための予防医学そのものです。当院の内科では、血液検査の結果だけでなく、高血圧や糖尿病といった他のリスク因子も総合的に判断し、患者様にとって最適な目標値と治療計画を設定します。
健康診断で脂質に関する項目を指摘された方、特にLDLコレステロール値が高い方は、血管のSOSサインだと捉えて、決して放置しないでください。
保内郷メディカルクリニックは、地域の皆様が健康で長生きできるよう、脂質異常症の継続的な管理を全力でサポートいたします。まずは一度、ご自身の血液検査の結果をご持参の上、ご相談ください。
血液をサラサラに保ち、いつまでも若々しい血管を維持しましょう。

