保内郷メディカルクリニック 内科より
健康診断で「LDLコレステロールが高い」と指摘され、不安を感じている方は少なくありません。このLDLコレステロール、通称「悪玉コレステロール」は、血液中の脂質の中でも特に動脈硬化との関連が深く、心臓病や脳卒中のリスクを高める最大の要因となります。
なぜ「悪玉」と呼ばれるのか、そして、自覚症状がないうちに静かに進行するこの状態に、私たちはどう立ち向かうべきか。当院の内科が専門的な視点から、高LDLコレステロール血症について詳しく解説し、具体的な対策をご提案します。
1. コレステロールの役割と「悪玉・善玉」の真実
コレステロールは、細胞膜やホルモン、胆汁酸の材料となる、私たちの体にとって必要不可欠な脂質です。しかし、血液中では脂質がそのまま溶け込めないため、リポたんぱくというタンパク質に包まれて運搬されます。この運び屋の役割によって、「悪玉」と「善玉」に分類されます。
❶ LDLコレステロール(悪玉):運ぶ役割
- 役割: 肝臓で作られたコレステロールを、全身の細胞に届ける。
- 「悪玉」とされる理由: 血液中で過剰になると、血管の壁にたまり始めます。酸化されるなどして変性したLDL-Cは、血管の壁に炎症を起こし、動脈硬化を急速に進行させるプラーク(コブ)を形成する主犯となります。
❷ HDLコレステロール(善玉):回収する役割
- 役割: 血管壁に溜まった余分なコレステロールを回収し、肝臓に戻す。
- 「善玉」とされる理由: 血管を掃除する働きがあるため、動脈硬化を防ぐ役割を果たします。
重要なのは、LDLコレステロールの「過剰な状態」が問題であり、その過剰なLDL-Cによって血管が狭くなったり詰まったりすることが、心筋梗塞や脳梗塞に直結するということです。
2. 高LDLコレステロールの基準値とリスク
日本動脈硬化学会の基準では、LDLコレステロール値が140mg/dL以上で高LDLコレステロール血症と診断されます。
しかし、注目すべきは「リスクに応じた目標値」です。
| 患者様のリスク分類 | 目標LDL-C値 |
| 低リスク(その他のリスクがない) | 140mg/dL未満 |
| 高リスク(糖尿病、高血圧、喫煙などがある) | 120mg/dL未満 |
| 超高リスク(心筋梗塞などの病歴がある) | 100mg/dL未満 または 70mg/dL未満 |
このように、糖尿病や高血圧を合併している方、すでに心臓病の経験がある方は、一般の方よりも厳しくLDLコレステロールをコントロールする必要があり、目標値が低く設定されます。当院では、患者様の状態を総合的に評価し、個別に最適な目標値を定めて治療を行います。
3. LDLコレステロール値を下げるための食事集中戦略
高LDLコレステロールの改善において、食事療法は治療の根幹となります。特に「摂るべきもの」と「控えるべきもの」を明確にすることが重要です。
🚫 積極的に控えるべきもの(LDL-Cを上げる要因)
- 飽和脂肪酸の多い食品:肉の脂身(バラ肉、ひき肉)、バター、生クリーム、チーズなどの乳製品、ラードなど。これらは体内で合成されやすく、LDLコレステロール値を直接上げます。
- トランス脂肪酸:マーガリン、ショートニング、ファストフード、加工食品などに含まれる場合があります。LDL-Cを上げ、HDL-Cを下げるため、摂取を極力控えるべきです。
- コレステロールを多く含む食品:卵(特に卵黄)、魚卵、レバーなど。過去ほど厳格ではありませんが、高LDL-Cの方は食べ過ぎに注意が必要です。
✅ 積極的に摂るべきもの(LDL-Cを下げる要因)
- 水溶性食物繊維:海藻類、きのこ類、こんにゃく、大麦、オートミール、果物(柑橘類など)に含まれる水溶性食物繊維は、腸内で胆汁酸(コレステロールから作られる)を吸着し、体外への排出を促進します。
- 不飽和脂肪酸:
- オレイン酸(オリーブオイル、アボカド): LDLコレステロールのみを下げ、HDLコレステロールには影響を与えにくいとされます。
- 多価不飽和脂肪酸(青魚の油:EPA・DHA): LDLコレステロールを下げ、血液をサラサラにする効果があります。積極的に摂りましょう。
4. 薬物療法:生活習慣改善の次の一手
食事や運動といった生活習慣を徹底しても、遺伝的要因や病状の進行により目標値に達しない場合は、薬物療法を開始します。
- スタチン系薬剤:現在、高LDLコレステロール治療の中心となる薬です。肝臓でのコレステロール合成を強力に抑えることで、LDLコレステロール値を大幅に低下させます。
- その他の薬剤:小腸でのコレステロール吸収を抑える薬や、LDLコレステロールの排出を促す薬など、患者様の状態に応じて最適な薬を組み合わせます。
薬物療法は、動脈硬化の進行を食い止め、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを低下させるために極めて有効です。自己判断で服用を中断せず、定期的な検査を受けながら継続することが大切です。
5. 当院内科からのメッセージ:血管を錆びさせないために
高LDLコレステロール血症は、血管という大切なインフラを内部から徐々に錆びさせていく状態です。一度進行した動脈硬化を完全に元に戻すことは困難ですが、LDLコレステロール値を適切にコントロールすることで、病気の進行を止め、未来の合併症を防ぐことができます。
健康診断の結果を放置せず、ご自身の血管年齢を意識して生活することが重要です。
保内郷メディカルクリニックでは、高血圧や糖尿病といった他の生活習慣病も総合的に見ながら、患者様にとって最も無理がなく効果的な治療計画をご提案します。まずはご相談ください。
悪玉コレステロールをコントロールし、健やかな毎日を維持しましょう。

